サイト内検索を閉じる
ステークホルダーとのエンゲージメント

企業が取り組むべき
ダイバーシティとは

[DATA]
□鼎談日: 2019年8月3日(土)

□鼎談者:
一般財団法人CSOネットワーク事務局長・理事/一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク 顧問 黒田 かをり氏
コマニー株式会社 常務執行役員 経営企画本部長 塚本 直之
コマニー株式会社 サステナビリティ経営推進室 室長 北川 真奈美

黒田かをり氏

民間企業勤務後、コロンビア大学ビジネススクール日本経済研経営究所、米国民間非営利組織アジア財団の勤務を経て、2004年より現職。ISO26000(社会的責任規格)策定の日本のNGOエキスパートを務めた。2010年4月より、CSOネットワークとアジア・ファンデーション(元アジア財団)との事業パートナーシップ契約により、同団体のジャパン・ディレクターも兼任。2017年〜2019年7月まで、一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク代表理事(現在は顧問)、さらに日本政府が推進するSDGs推進円卓会議の構成員も務め、多岐に渡って活躍中。

塚本直之

2004年成蹊大学経済学部を卒業後、スタンレー電気株式会社に入社。3年の勤務を経て、2007年当社へ入社。早々トヨタ自動車株式会社へ出向し、原価管理を学ぶ。2010年当社復帰後、コマニーの創業の精神を紐解くにつれ、それがSDGsの理念と一致するとの判断から、SDGsへの経営実装を推進。現在はサステナビリティ経営の推進を通じて企業価値の向上を目指し経営戦略への実装を進めるとともに、社外との交流も積極的に実施している。2018年にはSDGsビジネスアワード グローバルイノベーター賞を受賞。2019年には国連グローバル・コンパクトの招待を受け、日中韓ラウンドテーブルにも登壇。

北川真奈美

1989年コマニーに入社。製造の窓口業務にはじまり、営業推進部門、社長秘書など各職を歴任。2015年より同社の社会貢献活動やCSR活動にも積極的に参加し、2016年にはCSR方針(現サステナビリティ方針)制定に従事。2019年4月には同社ではプロパーとして女性初の部長職を任命され、サステナビリティ経営推進室においてSDGsの経営実装と社内外への浸透活動を行う。

CSOネットワーク https://www.csonj.org
1999年、地球規模課題の解決に取り組む企業、政府、市民社会組織(CSO)の連携を推進するため発足。その後2004年、CSOネットワークと改名。「公正で持続可能な社会に向けた価値ある取り組みを見出し、マルチステークホルダーの参画による社会課題解決を促す」ことをミッションに掲げ、「社会的責任(SR)・サステナビリティの推進」、「ビジネスと人権」、「地域主体の持続可能なプロジェクト」、「評価人材育成や社会的インパクト評価ツールセットづくり等の評価事業」、「SDGs推進」などの事業に取り組む。

SDGs市民社会ネットワークの役割、企業との連携

塚本
黒田さんはSDGs市民社会ネットワークでも活躍されていらっしゃいますが、市民社会ネットワークとはどのような活動をしているのか、また大切にされていることなどをお聞かせいただけますか。

黒田
SDGs市民社会ネットワークは、NPOやNGOのネットワークを作ってSDGsを広める活動をおこなったり、政府に対してさまざまな提案をしたりする活動団体です。また前身のネットワークは、SDGsの策定段階では、SDGsにどんな目標を入れるべきかの議論や政府への働きかけをしていました。
NPO・NGOが行っている社会的な活動や環境に対しての活動は、その対象は社会的に弱い立場に立たされている人々やグループ(たとえば、子どもや障害者・先住民族)などの支援が届きにくい方が多く、そういった方々に寄り添う形で活動していることが多いです。また、国連や政府に対して政策を変えるための活動をする団体もあるので、一団体で何かをするよりはネットワークをつくることに意味があります。
SDGsは17 のゴールがあり多岐にわたるのですが、目標は繋がっています。例えば、今まで福祉や医療に対する活動をしていた方と環境問題に取り組む方がSDGsで連携し始めています。実際に、コミュニティの中では、環境問題もあるし福祉や教育の問題もあるので社会課題のつながりを前提に取り組むことの必要性を感じています。私たちはそこでネットワークを組む活動をしています。

塚本
SDGsのゴール設定にも関わられていたのですね。どのように関わられたのですか?

黒田
策定の際に、国連はSDGsに関するオープンワーキンググループ(OWG)を設置しました。その政府間交渉プロセスに、幅広い団体が参加しました。1992年の地球サミットの時に提唱されたメジャーグループ(子どもと若者、女性、ビジネスと産業界などの、9つのグループ)に加えて障害を持つ方のグループなど、さまざまなグループが加わり、開かれたプロセスで作られました。日本のNPOやNGOも、海外のNGOとの連携や、日本政府(外務省)との定期的な協議を通して、SDGs策定に参加しました。ちなみにSDGsの目標10は国際的なNGOの働きかけで作られたものです。

黒田さんが見るコマニーとは

塚本
コマニーはSDGsが持っている考え方と当社の理念が一致して、共感して進めていくことになりましたがそんな、コマニーをご覧になって、黒田さんからはコマニーの活動はどのように見えますでしょうか。

黒田
まずSDGs宣言されていてすごいなと思います。企業の中でSDGsに取り組んでいるところはかなり増えていますが、コマニーさんはSDGsを経営の中心においているという印象を受けます。働き方も含めて全てやっていることがSDGsをベースにしているという印象です。 目標3の「well-being」は「福祉」と訳されていますが、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること を意味する幅広い概念です。コマニーさんは、それを空間として、働き方やみなさんが使いやすい・暮らしやすいものにするかを探求され、また介護向けの商品などに取り組み、体現されている。海外の文献などをみると、最近は「well-being」が頻繁に登場しています。それは人間らしい生活や充足の重要性が増しているからだと思います。生活の場や入院をしている場、さまざまな場が生きがいの対象となります。コマニーさんが実験オフィスを含めて取り組まれていることは、今後非常に役に立つと思います。未来をみて取り組まれていることが素晴らしいことですね。 コマニーさんは、そもそもどうしてSDGsに取り組まれているのでしょうか?

北川
当社の場合、SDGsを知るきっかけは一本の国連の映像(WE THE PEPOPLE:グローバル・ゴールズ)でした。それを見て心から共感し、感動しました。それがきっかけでSDGsについて勉強をするようになり、整頓してうちに、SDGsと当社の理念が繋がっていると気付いたのです。コマニーが実現したい経営は「関わる全ての人の幸福に貢献できる経営」ですが、これはSDGsの「誰一人取り残さないこと」や「より大きな自由における普遍的な強化を追求すること」と一緒であると感じました。そうした時に、SDGsに取り組むことは自分たちも幸せになるし、世界にとってもより良くなることは間違いないので、事業を通して実現していきたいと思うようになりました。

塚本
当社は苦境の中からうまれた会社でして、そんな中で創業者が経営を行う上で何より大切に考えたことは「人道と友愛」の精神です。人道=人として正しいこと、友愛=仲間と共に切磋琢磨して励むことですが、この二つを何より大切にして発展してきた会社です。 とはいえ、50年以上も経営を続けているとだんだんとそのような理念が薄れてしまっていたのですね。そんな折に、リーマンショックで赤字を経験することになります。その際に改めて会社の存在意義を見直し、問い正した時に、やはり創業の時の理念が大切だと気づきました。それは「全従業員の物心両面の幸福」と「人類社会の進歩発展」を同時に実現することです。最初は従業員が幸せになるにはどうすればいいかと取り組んでいたのですが、やればやるほどそのためには誰かの役に立つことが大切だと気付きました。誰かの役に立っていると、その人はいきいきと働ける。生きることができると考えました。

黒田
なるほど。私も社員の方がいきいきと働いていることが、コマニーさんの原点だと感じました。「なぜ人は社会貢献するのか。」という研究では「人に良いことをすることが自分の充足感を高める。それは自分の幸せに繋がっている」ことがわかってきています。私はそれが重要だと思っています。そうでないと「あの人は高潔な人だね」で終わってしまいます。でも本当は誰にでもあるものです。人に何かをしてあげた時、普通の感覚の中で自分にとって嬉しいという感覚がある。例えば電車で席をゆずって嬉しい一日になる、という感覚が大切であると思います。

塚本
すごく共感します。コマニーでも利他ということを大切にしていますが、それは「忘己利他」ではなく「自利利他」なのだと社内に強調しています。 自分を利するのであれば、そのためには他を利することが必要です。結果として自分に返って来ますから、そのためにいいことをするのはまったくもって悪いことではない、という考えを大切にしています。

黒田
そういう考えを日本で広めていった方がいいと思います。良いことをすることを恥ずかしいという人もいるので、SDGsが出てきて普通にそういうことが言えるようなってきたことは良いことだと思います。

塚本
きれいごとがまかり通る世の中にしていきたいですね。その意味では、東日本大震災がきっかけで世の中の価値観が大きく変わったと感じます。

黒田
東日本大震災の時はみんな我を忘れての利他精神が中心でしたね。今の若い世代はそれを経験しているからか、大切にしている価値はSDGs的な価値になっていると思います。

塚本
SDGsに出会ったことは私たちにも大きな変化をもたらしました。今までは想いはあっても知識がなく、何を具体的に行っていいのか分からない状態でした。例えば「人権」とか「多様性」とか「サプライチェーン」などと言われても、それが私たちとどのように関係していて、何を考え、何をしたらよいのかまったくわからなかったことが、SDGsと出会い、具体的な知識を入れるきっかけやバックキャスティングなどの思考を学ぶことにもなり、考えられるようになりました。

黒田
コマニーさんはグローバル・コンパクト(以下GC)にも署名されていますが、これもSDGsの一連の流れですか。

塚本
まさにその流れです。弊社は具体的な施策より先にまず「やる」と決めてSDGs宣言をしました。私たちの理念には「有言実行」という言葉があり、これを大事にしているので、先に宣言をしたのです。そこから具体的に施策展開するために、知見がないのでどこで知った方がよいかと模索した中でGCに出会い、署名させていただきました。

北川
GCの分科会で学べる機会や情報は当社にとって非常に大きいことでしたし、活動されているすばらしい方々と出会えること大きな変化のポイントだったと思います。 現在は13の分科会にそれぞれの担当部署のメンバーが参加しています。

黒田
そんなに参加されているのですね。すごいですね。GCの加盟社数も300を超えたようですね。

企業が取り組むべき「人権」、「ダイバーシティ」とは

塚本
SDGsに取り組むようになって初めて「人権」という言葉に触れ、意識をするようになりました。取り組みを進めようとすると難しさも感じています。活動を進めるうえでは、正しい学びを得て正しくアクションに繋げることが大切だと感じています。例えば、私たちの建築業界では男女比率は大きな課題です。まだまだ男性社会のイメージが強く、女性の進出が遅れているのが現状です。当社の女性比率も20%を切っており、社内にリーダーは197人いますが女性管理職はたったの5人です。 現在、変化をさせているところなのですが、黒田さんは多様性を尊重して活動していく可能性、また課題をどのようにお考えですか。

黒田
東京オリンピック・パラリンピック競技大会も持続可能性に配慮しており、私は現在2つのワーキンググループに入っていて、1つはサプライチェーンで持続可能な調達コードを作っていくワーキンググループ、もう1つは大会全体の労働人権と参加協働のワーキンググループで、こちらは座長を務めています。後者では、大会を通じたダイバーシティ&インクルージョン(多様性の受容)を強調しています。 多様性で言えば、例えばアメリカでは、性別や人種などによる格差是正や平等実現を目指して、雇用や教育の場でアファーマティブ・アクション(歴史的または慣例的に社会から取り残されてきた人たちに対し、格差の是正のために、積極的に取る改善措置)を取り入れていました。アメリカも現在もなお課題は残っていますが、2000年ごろからは、企業は、経営戦略における競争優位性という点から、ダイバーシティの取り組みを本格化させてきたと言われています。多様性の受容が我が社にとってなぜ必要なのか、ということをはっきり打ち出すことが求められているという気がします。日本企業は女性活躍や管理職比率といったアウトプットを求めがちですが、そもそも何のためにということが共有されないと、現場でギャップを感じることや不公平感が生まれてしまいます。

北川
その通りだと思います。当社も2017年に女性活躍推進チームが結成されましたが、何のためにやるのかという目的や目標が曖昧で、アウトプット優先になっていたように思います。チームメンバーは女性だけだったのですが、自分たちの課題は自分たちで解決しなさいと言われているようで、正直辛かったです。女性活躍は女性だけの問題ではないので、男性の意見も聞いたうえで一緒に進めていく必要があると感じています。

塚本
当時のチームはメンバー構成そのものが男性の偏見であり、「女性を活躍させたいのであれば、男性が変わらなければならないのだ」と思い知らされました。仕事と育児の両立のために、女性に「早く帰っていいよ」と声をかけても実際には帰れませんよね。本当は男性も一緒に早く帰るようにしなければ、本当に女性が帰りやすい環境にはなりません。たぶん男性・女性だけではなく、多様な社会の中でみんなが活躍できる社会をつくることも、同じことなのだろうと反省させられました。

黒田
社会の中でまったく気づかないで普通に考えたり行動したりしていたことが、ある人たちやグループを傷つけていることがあるかもしれない。常に謙虚さをもって常識を疑っていくことが必要だと思います。人間はみんな偏見を持っています。その偏見を自覚することも重要です。

塚本
おもしろいのは偏見を持っているという前提で相手と話をしていると、女性の方も「女性も変わらないといけない」という発言が出てきて、またハッとしました。お互いを思いやる気持ちが物事を前進させるのですね。

北川
私自身、女性が働くということに対して意識がずいぶん変わりました。入社当時は結婚や出産後に仕事を続けることも思っていませんでしたし、ましてや女性が責任者になるとは想像すらしていませんでした。その頃から比べると、女性がながく仕事を続けることができる制度や環境が整ってきたことには感謝しています。 女性も変わらなければいけないと思うのは、「仕事と家庭の両立は難しい」とか「責任者は男性が務めるべき」といった偏見を持っていないか、さらに自分の仕事観をもつことが大事じゃないかということです。現在の私は、仕事と家庭の両立に課題はありますが、周りのサポートをいただきながら何とかやっています。女性責任者としても、今は大変そうと映っているかもしれませんが、私たちを見てリーダーになりたいと思う女性が増えていったら嬉しいです。仕事観を持つとは、受動的ではなく能動的に自分はどのように働きたいと思っているのか、どんな時に喜びを感じるのかを考えてみることです。その中にも、理想と現実とのギャップから課題が見つかります。男性だけでは課題として挙がってこない、女性の立場として気づくことを発言していくことが今の私の役割ではないかと思っています。ジェンダー平等を、男性・女性一緒になって考えていきたいです。

黒田
人それぞれの働き方があり、その選択の時に男女の差がなければいいのかなと思います。みんなが生きやすい世の中ができていくといいですね。女性活躍については世代的なギャップもあります。知人の女性リーダーは、働くことが素晴らしいということを家族にも伝えてほしいと話しています。会社の中だけでなく、社会や家庭の中の考え方も変わらないといけない。変わるのには時間がかかるでしょうね。 でも、企業のみなさんの取り組みを見ていると、SDGsの持つ力やポテンシャルが高いことを感じています。事業にうまくSDGsが入っていくことで、その活動の後押しや広がりに繋がります。みなさんに使われて初めてSDGsの価値がでてくると感じています。SDGsの良さは、政府が主語ではなく、一人ひとりが主役で考える表現で問い掛けられている点が良いですね。自分自身を変えるキッカケにもなります。

SDGsで描くコマニーの未来

塚本
黒田さんから見て、企業やコマニーにどういったことを期待されているでしょうか?

黒田
日本企業は他のセクターよりSDGsへの関心が早く、高いと感じています。日本の中でSDGsを牽引していただく役割があると思っています。また、御社製品は、皆が社会の中でお世話になっているので、SDGsを掲げて取り組むことは、企業のみなさんが考える以上に大きなインパクトがありますので、引き続きいろいろな情報発信をしていくと社会の規範になると思っています。SDGsの活動を進めていくと、いろいろな方に出会いますが、SDGs のネットワークやつながりはすごいと感じています。また、そこで繋がった人の活動を知って一緒に仕事をしたくなります。全国にはたくさんの素晴らしい取り組みがあるのだなと思いました。こういった輪が広がっていくとよいなと思います。

塚本
これまでは経済を見るとキーワードは「集中」で「大きくまとめてやる」で動いていたと思いますが、SDGsが目指している持続可能な社会を作ろうと思ったときに、「分散」が大きなキーワードになると思います。地方も輝くべきだし、一人ひとりも輝くべきだしすべてがそれぞれに輝いていくべきだとおもうので、私達のような小さな規模感の企業でも輝くべきだと思います。

黒田
そうですよね。素晴らしい考えだと思います。エネルギーもそうですよね。小規模分散で小さい単位で循環させていく、SDGsも分散して循環型社会をつくっていくことかもしれませんね。ですので、みんなが主役になるそんな社会を目指したいですね。

  1. トップページ
  2. サステナビリティ
  3. ステークホルダーとのエンゲージメント
  4. 企業が取り組むべきダイバーシティとは