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ステークホルダーとのエンゲージメント

COMANY SDGsWEEKトークセッション『デザイン経営とSDGsで考える~次世代の空間(間づくり)とは~』

[DATA]
□日時: 2020年9月30日(水)

□登壇者:
【パネラー】
  SDGパートナーズ有限会社 代表取締役CEO 田瀬 和夫氏
  株式会社SCAPE 代表取締役        塩浦 政也氏
  コマニー株式会社 代表取締役社長執行役員  塚本 健太

田瀬 和夫氏

東大工学部卒。92年外務省に入省、人権難民課、国連日本政府代表 部一等書記官等などを歴任。「人間の安全保障委員会」事務局で、緒方貞子氏の補佐官も務めた。2005年国連に転じ、人間の安全保障ユニット課⾧などを務めた後、デロイトトーマ ツコンサルティング執行役員。2017年SDGパートナーズを設立し、代表取締役CEOに就任。

塩浦 政也氏

早稲田大学理工学部大学院修了後、「株式会社日建設計」に入社。東京スカイツリータウンなどの設計業務に携わった後、2013年に「アクティビティ(=空間における人々の活動)が社会を切り拓く」というコンセプトを掲げた領域横断型デザインチーム「NAD」を立ち上げ、室長を務める。近作は羽田クロノゲート、仙川キユーポート、ポピンズナーサリースクール、東京インターナショナルスクール、ほか多数。2018年12月「株式会社SCAPE」を立ち上げ、独立。

塚本 健太

石川県小松市出身。2000年東海大学中退後、サックスで音楽の道を志す。しかし創業家としての使命を果たす事を決断し、京セラコミュンケーション㈱を経て2009年コマニー㈱へ入社。2012年からは管理統括本部長としてコンプライアンス・ガバナンス、そして財務の重要性を知り、2015年からは営業のトップとして全国を回る。全営業との面談では一人ひとりのマンパワーチェックを直接自身が行い、期待値を伝授。そして2019年6月創業家3代目として代表取締役社長執行役員に就任。

【本編】

本日は「デザイン経営とSDGsで考える~次世代の空間(間づくり)とは~」というテーマで、SDGs実現に向けて必要なデザイン思考について、またデザイン思考そのものについて皆さんでお話を進めていきたいと思います。

早速ですが、SDGsを進めていく上では演繹的思考(バックキャスティング)という言葉がよく聞かれます。SDGsが掲げている2030年へのゴールというのは非常に高い目標がたくさん並んでいます。単純に現在の努力を続けていて到底到達できるものでもない、そんな中でこれを本当に実現していく上でもデザイン思考が重要であると言われています。

さて、デザイン思考ってそもそも何なのか、そしてデザイン思考がなぜ今必要なのかということを塩浦さんの方から普段実施されていることも兼ねてお話をいただけますか?

塩浦
はい、株式会社SCAPEの塩浦でございます。SCAPEのミッションは「22世紀の景色へ」ということで、激動の時代を生きていく中でこれまでの都市の作り方、空間の作り方、建築の作り方、いいところはしっかりと学び継続しますが、どうやらこのまま同じことをしていても社会が良くない方向に行くんじゃないかと考えています。ですから、継続もしながら引き継ぎもしながら全く違う新しいゲームを作っていこう、新しいルールを作っていこう、そして22世紀の景色へ、次の代にバトンタッチをしようと、こんなことを考えながら建築家として活動しております。

それではデザイン経営についてお話をしたいと思います。2018年の春に経産省と特許庁がタッグを組みまして「デザイン経営宣言」というものが出されました。

2018年にデザイン経営が国に認められて、世の中の日本の会社が少し注目を浴びているのが、実はほんの最近だということがわかるかと思います。デザイン経営の役割は、一つがブランド力の向上、もう一つがイノベーション力の向上となります。それによって企業競争力の向上につながり、例えば国際的にはデザイン経営を導入している国々では4倍の利益があるとか、成長率が2.1倍になっているとか、2.0倍の成長を市場規模で持っているというようなことがうたわれています。

コマニーさんでもデザイン経営を導入され始めているところですが、国内ではすでに導入されている企業がいくつかあります。有名なところでマツダさんやスノーピークさんですね。それからスターフライヤーさんという会社も、デザイン経営を導入されていることで注目をされております。このように世の中が少しずつではありますけれども、デザイン経営という言葉に少しずつ注目を当て始めているというのが昨今の流れかなと思っております。

ではデザイン経営を導入するとどうなるか、ここに簡単な模式図があります。縦軸に企業価値を、横軸に時間を置いていますが、これだけ世の中が激動している中で現状維持をしていくとだんだん右肩下がりになっていく。これはもちろん成長企業、成長市場もありますけれども、世界的に見た成熟国家における産業の変移だと思います。一方で、今これをやってみよう、これを導入してみようと、経営者がその場その場の思いつきによる打ち手を連打しても、一瞬ピクッと上がったりもしますが全体としては落ちていくんですね。それに対してデザイン経営を導入しますと、グッと上がってくるというイメージです。

ただデザイン経営にもポイントがありまして、一旦グッと落ちるのです。なぜ落ちるかというと本質的な議論をして、そこから企業の弱みを棚卸するという時期を必ず経ないとデザイン経営が導入できないからです。多くの企業がこの沈み込みを嫌がって、短絡短期的な連打を行って結局落ちていくということが私の経験の中で散見されます。ぜひこの一旦潜る勇気を持っていただくと、デザイン経営が上手く行くのではないでしょうか。

ここまでがデザイン経営のお話でしたが、そもそもデザインとは何か、それから経営とは何か、というところを皆さんと共有しておきたいと思います。デザインとは実は「思い、つまり目的を可視化すること」なんですね。それから経営とはその「思いや目的を達成するために色々とあの手この手を尽くしてやりくりする」ことだと考えますと、デザイン経営とは「思いを可視化してその達成のためにやりくりする」ことです。デザイン経営とは他ならぬ「目的抽出」から「実装」まで、全てをデザインとして捉えることで、この手段の抽出の一部だけをデザイナーの仕事だと捉えないことだという風に言えると思います。

デザインの価値は、4つの段階に分かれると考えております。これを2020年から仮に始めても、短い企業でもやはり4~5年ぐらいかかると私は思っております。一気にできるものではないからです。特に1000人を超える事業規模の会社ではそんなすぐに体制は変わらないと思います。例えばコマニーさんでは2030年のムーンショットを考えたときに、なるべく早く確実にこのはしごを登っていただくというようなイメージを持ちながら、皆さんと一緒にプロジェクトに取り組んでいるところです。

ありがとうございました。デザイン経営を実装するためには1回落ちるというところが印象的ですね。潜る勇気を持てるのか、これは経営をする皆さんにとって決断や勇気という部分が必要じゃないかと思います。

それでは続いて田瀬さんよりお話をいただきたいと思います。デザイン思考とSDGsは親和性が非常に高い、これこそSDGsを実現していくために必要なものとも言われています。ここについては田瀬さんよりご説明をお願いできますか?

田瀬
デザイン思考は約50年前にアメリカの建築家ブライアン・ローソンが自然科学系と建築系の学生に材料を与え、建築物を造らせる実験をしたのが始まりです。同じ家の建て方でも、これだけ考え方の違いがあるんだということからデザイン思考は始まっていて、それから長い時間をかけてビジネススキルとして出てきているわけです。私がやっている講演から少し抜粋してご説明しますと、今行われている多くのイノベーションやいろんな社会課題の解決って、私の目からみると根本的解決ではなく、対症療法的なものに見えます。

例えば子どもが水を転がして運べるタンクも、このタンクがあるせいで水道は遠いままになっていて、根本的な解決になっていません。栄養ドリンク剤も働かなければいいのに、長時間働くことを前提にしてそれをどうやって軽減するかという話になっています。仮にDV被害者向けに傷が即座に治るような薬ができると、これは問題の解決になっていないどころかその問題をさらに深刻化させる危険さえあります。このような対処療法的なものがいっぱいはびこっています。これらを私は「帰納法的(対症療法的)イノベーション」と呼んでいますけど、この帰納法の逆が演繹法なのです。目的やありたい姿から逆算して考えるということです。

例えば、皆さんの近くで例えると、金沢にある社会福祉法人 Share金沢では、そもそも人間は年を取ったらどんな暮らしがしたいか、どんな人生送りたいかというところから考え、「特別養護老人ホームはいらないのでは」、「いろんな世代が混ざり合って住む、そういう場所で自分も歳をとりたい」と考えて作られています。またノボ・ノルディスクという薬剤メーカーは糖尿病の薬であるインスリンを作っていますけど、「そもそも糖尿病があってはならない。だから糖尿病の撲滅を目指す」ということを掲げて、演繹的に自社の事業に必要なものを定義しています。こういう思考回路が大切だと思っています。

これを私は「演繹法的(逆算思考法的)イノベーション」と呼んでいますが、これがデザイン思考とすごく似ています。何がしたいのか、どんな風でありたいのかをまず決めるということです。

そもそも私の「デザイン」についての解釈ですが、私たちの心の中は論理的じゃないところもたくさんあると思うのです。言語化、論理化できるのはだいたい5%~10%ほどで、その他は潜在意識、愛、怒り、妬みであっていろいろな有象無象なことが一つの人間を形成していると思うのです。

その言語化できない部分、何かその人間の欲求みたいなものを形にしようとする心が、もしかするとデザインの領域になるんじゃないかと私は思っています。テクノロジーの進化の例でみてみると、昔は飛脚を使っていたものが電信になって、電話になって、今はスマホになっています。この進化の例のポイントは、システム思考的に飛脚をどんなに改善しても、どんなに速い馬を使っても、電信にはならないということです。どうしてその飛脚が電信になったかというと、飛脚で何がしたいの?という目的の部分に立ち返ったからです。「遠方にいる相手と必要な時に確実に連絡をとりたい、思いを伝えたいという」目的があるわけです。

だからこの進化はただ横に伸びているわけではなく、一度目的に立ち返っているのです。電話やスマホもそうです。ここでいくつかこのデザイン思考で出てきたといわれる製品を紹介すると、代表的なものとして2001年の iPod があります。スティーブ・ジョブズは、自分の持っている楽曲を全部ポケットの中に入れて2クリックで聴きたい。その頃にあったカセットテープやCD、MDは全部面倒くさすぎると。ユーザーが本当はこういうのが欲しいのではないだろうかといって作ったのが iPhoneです。

デザイン思考的にスマホの次は何かと言われたら、おそらくデバイスそのものがなくなってくる。話したいと思ったら本人が目の前にパッと現れるような、そういうものになると思います。今、皆さん不可能だと思うかもしれないのですけど、電信、電話、スマホと前の世代の人たちは完全に不可能だと思ったことが可能になった瞬間に当たり前になるわけです。デザイン思考がいかに今の技術的なハードルを乗り越えられたか、そういう鍵になってくるわけです。

これとSDGsがどう関係あるかというと、例えば SDG3.6の「交通事故死者数半減」も道路交通事故の死傷者を半減させるというのが、自動運転とかスマート信号機とか高齢者の運転ミスを検知する自動車とか、どれも素晴らしいのですが、全部車に乗ることを前提とした改善方法です。デザイン思考的に考えるのであれば、そもそも車に乗る必要あるの?ここから考えないといけない。車に乗ることを前提としているのがシステム思考的、車に乗らないことを考えるのがデザイン思考的です。ここで申し上げたいのは、どちらか片方だと実現できないだろうということです。積み上げも逆算も重要で、それが合うところに答えがあるんじゃないかということです。

これをSDGs的にもう少し広げて考えると、あるべき姿とかありたい姿ということをその意志、心の問題としてまず規定する。そこから逆算して、今ある資源とか能力をどういう風に発展させていけばいいかということを考える。そうすることによって、より高いところにいけるわけですね。

高いところや次の段階にいこうとすると、どうしても最初にあるべき姿を特定して、そこから逆算するという方向が必要になってくるような気がします。SDGsっていうのはムーショット、あるべき姿がいっぱい書いてあります。そこに到達しようと思ったら現状をコツコツ打破していくだけではいかないです。そうではなくて完全にパラダイムを変えるような方法論でやっていかないと物事は変わっていかない。あるいは逆にデザイン思考と積み上げの組み合わせを行うことで、この日本という国はもしかすると積み上げるのが徹底的に得意になるかもしれない。新しいパラダイム、世界的にも大きな価値を出していけるのじゃないかという風に思います。

ありがとうございます。事例をたくさん出していただきながらお話いただいたので、とても分かりやすく印象的に聞かせていただきました。それでは続いて、実際にデザイン思考・デザイン経営に取り組んでいこうとしているコマニーから社長の塚本健太さんより、実際の取り組みや苦労について発表いただければと思います。

塚本健太
まず当社の取り組みは、2018年に私がシリコンバレーに行ったのが大きなきっかけになっています。その時にぜひアップルの新社屋を見たいと思い、行きました。実際に行ってみると建物が美しく、興味深いところがたくさんありました。現地の人と話した時にデザイン思考やデザイン経営が、向こうで頻繁に言われているということがわかりました。また近くにGoogleやFacebookなどもありましたので見てきました。その時に必ず辿り着くのがスタンフォード大学でした。スタンフォード大学のデザイン思考・デザイン経営をやっているワークショップが非常に有名だということで実際に私も見てきました。これを見たときに、これからの時代はこの手法が経営に実装されていないとダメだよ、と現地や経営者の仲間からも言われましたが、当時ははっきり言ってなかなか難しく、何のことかなと思いつつもこういう人達が集まっている、こういう場所でイノベーションがたくさん起こっているのだなということを感じて帰ってきました。

ちょうど2018年は私たちがコマニーSDGs宣言をしたコマニーにとって熱い年だったのですが、コマニーSDGs宣言の中で、私たちが理想の世の中とは?人類の問題をどうやって解決していくか?といった様々なゴールと合わせて考え、「コマニーSDGs∞(メビウス)モデル」というモデルを構築しました。実はこのモデルを作ってからは、社会の問題解決や当社の技術や強み、あと誰を幸福にしたいかというものが有機的につながり始めたという実感があります。

時を同じくして、塩浦さんとのプロジェクトも行っていました。私たちのパネルや工場などを見ていただき、「間仕切り」そのものはかっこいいと言っていただきました。じゃあどれぐらいかっこいいかやってみようと式典で実験していただいたり、あるいは人と調和する間仕切り、包む間仕切りはどんなものかと色々プロジェクトもやらせていただいたりと、実はこの2018年あたりはすごくデザイン経営、デザイン思考と出会い、それが形になって動き始めた年だったと思っています。

それからCOMANY LAB TOKYOを開設しました。私たちは空間をビジネスの主戦場にしておりますので、実際に東京事務所を大改修し、様々な働き方とか場づくりを行い、それを自分たちで体験しようということで取り組んでいました。また塩浦さんを講師として、役員幹部にデザイン経営についての講演をしていただきました。意識を変えていくには10年スパンで考えなきゃいけないということもありましたので、デザイン経営とはどういうことなのかということから学びました。そして今年の4月にはデザイン経営室を発足し、デザイン思考、デザイン経営を経営に実装していくということをやらせていただいています。その中で壁って何だろう?壁とパーティションで何が違うのか?パーティションと間仕切りで何が違うのか?とこういう根本から考え直し、深めているところです。

先程の塩浦さんの話に「一旦落ちてから上がるのですよ」ということがありましたが、こういうことにしっかりと時間をかけていくことで後々上がっていけるような気がしています。いずれ世の中に対して、どんどんお役に立てるような形で変えていきたいなと思っています。

振り返ると私たちは社是や経営の理念、使命は非常に大事に経営をしてきています。社是は「我等の精神は人道と友愛である」と人道は人の道に反しない正しいこと、友愛は親愛の情をもって友を愛する。この友というのはSDGsからすれば、人だけではなく環境とか地球全体、宇宙全体のことを言っているのだろうと思いますし、経営の理念は「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する」ということです。そして使命として、我々のミッションは「すべての人が光り輝く人生を送るために、より良く働き、より良く学び、より良く生きるための持続可能な環境づくり、人づくりに貢献する」というこのようなことを大事に、実は経営をやっています。これがより具体的に誰をどう幸福にしますか?というのが、コマニーのサステナビリティ方針など、そういったものに今つながっているのかなという風に思っております。

そして、その根元は1968年昭和43年の創業当時に出来上がった社是だと思っています。一番の「我らの精神は人道と友愛である」は現在の社是ですけど、その下から4つは「べきである」となっています。

  二番目は「共存共栄の中に成り立つべきである」

  三番目は「社会に貢献すべきである」

  四番目は「知識を高め技術を磨き絶えず前進すべきである」

  五番目は「余暇を楽しみより豊かで幸福な人生を送るべきである」

この一番目の「我等の精神は人道と友愛である」は言いきりなのですが、二番目以降は、我々コマニーが目指すべきムーンショットの事を言っていたんだなというふうに今思うと感じます。

そういう意味でこういう理念のもとに商品開発やウイルス対策商品などを生み出していますが、これもすべて世の中の誰かを幸福にすると、誰かを幸福にするときに誰かを置き去りにしない、あるいは環境を考えるというそういったものが非常に今のデザイン思考、デザイン経営、SDGsと当社の理念の親和性が非常に高いというふうに感じております。

それは事業活動だけでなく、地域や社会貢献、災害時のボランティア、海外カンボジアの子どもたちへの支援等を行っていますが、これはコマニーSDGs∞(メビウス)モデルからの逆算でありますし、今の自分たちが目指す方向性というのは、デザイン思考、デザイン経営、SDGsというものに出会ったことで非常に明確になって整理されたと私は考えております。

実際に2030年まであと10年しかありませんが、とにかく2030年には我々はまず「ここまでいこう」ということを明確にして、ムーンショットを打って頑張ろうということでまとめています。

ありがとうございました。それではここで皆さんからいくつかご質問頂いておりますので、ぜひお答えいただければと思います。 一問目。「私は、この世の中のゴミをなくしていきたいと思っています。そこで注目しているのがサーキュラーエコノミー(循環型経済)※1 の実現です。特にゴミを資源に変換して同じものを作るクローズドループリサイクル ※2 にはとても興味があり、実現したいと思っています。これはシステム思考での取り組みですか、デザイン思考での取り組みですか?」ということですが、田瀬さん、いかがでしょうか。

※1 循環型経済:「廃棄」されていた製品や原材料などを新たな「資源」と捉え、廃棄物を出すことなく資源を
  循環させる経済の仕組み
※2 クローズドループリサイクル:素材として再利用するリサイクルで、不純物除去をすることがより、成分毎の
  厳密な選別管理をしなくても、同じ素材にリセットして無限に循環利用されるリサイクル

田瀬
今のゴミをどうやってぐるぐる回すかという風に考えるのは、システム思考的なところがあります。デザイン思考的にどう考えるかというと、例えば電球が切れるとします。新しい電球を買うというのはシステム思考、そもそも電球は必要なのか?電球のない生活スタイルそのものを変えようとすることがデザイン思考だと思います。リサイクルとリユースはシステム思考的な考え方が強いですが、リデュースはそもそも使わなくてもいいところからきていますので、サーキュラーエコノミーもシステム思考とデザイン思考の組み合わせで本当に回っていくようにできるんじゃないかと私は思います。

こうやって聞いているとなるほどと思うのですが、ついつい日常の思考パターンで考えると、そこに行き着くまでに苦労することが多いんじゃないかなというふうに思ったりもします。デザイン経営やデザイン思考を考えていく上でのコツみたいなところがもしあれば教えていただけますか?

塩浦
デザイン思考でデザインをするという時に、絵が上手くなるとかセンス良いことを考えられるということではなくて、日々の生き方や生活の仕方みたいなものを変えていくこと自体がデザイン思考だという風に捉えられると思います。コツというのはなかなか難しいのですけども、例えば、私がみなさんにお勧めしているのは「まず街に出よう」と。街に出て、例えば今日は赤いものだけを収集しようとか、あるいは緑のものを徹底的に集めてみようとか何かテーマを決めて普段と全然違う意識で歩いてみる。あるいは自分の生活の中でどうでもいいことをふと疑問に思ってみるみたいなことを、体質改善ですからトレーニングと同じで少しずつ繰り返していくことで、そもそもこれっているのか?これってこういう風に考えたらうまくいくんじゃない?みたいな体質が出来上がってくるんじゃないかなと思っています。

田瀬
デザイン思考とはある意味、問いを問い直すっていうことかなと思うところがあって、同じ問いを違う観点から見てみるっていう訓練だと思うんですよ。解決しなきゃいけないような問題が出てきた時に、例えば外に出てみたりして視点を変えてみるということがないと、なかなか違う視点に思い至らないんじゃないかと思うんですよね。そこでいろいろ視点を変えてモノを見ているうちに、本質的なことに気付き出すっていう、そういうプロセスがデザイン思考ではないかと思います。だから徹底的に観察して、何でそうするのか?何をしたいのか?といった本質的なニーズを繋ぎ合わせて提案にもっていくことだと考えます。

質問の二問目です。これは塚本健太さんへの質問です。コマニーのデザイン経営やSDGs実現するにあたっての現在の課題と、一般的なデザイン経営とSDGsの親和性ではなくて、あくまでパーティション製造分野でのデザイン経営追求がどのような形で社会インパクトや SDGsに繋がっていくとお考えなのか教えください、ということです。

塚本健太
まず課題のところは、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)というのは一つあると思いますね。特にバックキャスティングというのはこれまでの思考の仕方と全く違うので、多様な人がさまざまな特技を持っている人がいた方が、高いイノベーティブな思考にしていくには有効だと思っています。そういう意味でもっと多様な働き方とか、さまざまな制度を構築して、皆さんが光り輝けるような企業にしていかなければいけないなと、それにはまだまだやることがたくさんあるというのがまず一つですね。

あと事業においては、パーティションメーカーだからどうかと考えるのではなく、いま世の中で困っていることは何なのかというパーティションメーカーの視点をあえて捨てて考えてみる。近江商人の「三方良し」という「売り手」「買い手」「世間」良しっていうのがありますけど、そこに私は「神様」「宇宙」「地球」良しでもいいし、もう一個上のレイヤーの視点を入れたときに世の中がいま何に困っているかということを解決していく。そこに対して自分達の強みは何かということを組み合わせていくことで、より世の中に大きなインパクトを出せるのではないかと思いっています。

60年間培ってきた空間を創るという面において、どうお役に立てるのか。ただパーティションを売るのではなく、どうやって光り輝く人生をたくさんの人に送ってもらうかという観点を持って、結果としてパーティションが必要であれば作りましょうというスタンスでいいのかなというふうに思っています。お弁当箱を例にするとですが、お弁当にはご飯とかおかずやサラダなどいろいろ入っています。もしお弁当の間に仕切りがなかったらどうなるでしょうか。お弁当を買おうとする時、同じ中身で仕切りがあるものとないもの2つ並んでいたら、皆さん綺麗に仕切りの入ったお弁当を選ぶと思うんですね。一つ一つのお弁当の具材は変わらないけども、どちらが光って見えるか、より美味しく食べられるのかと考えると、やっぱり必要なところに仕切りがいるなと。パーティションもそういうことだと思うんです。より多くの人を光り輝かせるためにどういうものが必要か、それが安心とか安全とか機能とかが必要であれば技術を使って当社が貢献をしていくということなのかなと考えております。

ありがとうございます。そもそもデザイン経営をやっていくという前提にパーティションメーカーであるということを超えて、人々が幸福であるや、もう一つ上のレイヤーから世の中を作ろうとしているという話がありました。塩浦さんもSCAPEという会社は「22世紀の景色へ」というミッションを持って、今のままではダメだからこれを変えるんだという意志を持って会社経営をされている。田瀬さんのお話も同じく、そもそもSDGsは今ではなく本当に誰一人取り残すことなく幸せなそんな世の中をつくること前提としているからこそ、このデザイン経営、デザイン思考というものの必要性というものを感じていらっしゃる。皆さん共通して世の中変えなきゃいけないという強い意志をすごく感じさせていただきました。これから先、どんな世の中を作っていきたいか、どんな社会を作っていきたいのかを皆さんにお聞きしたいと思います。

塚本健太
このコロナ禍で、人間はもっと心の面で幸せに生きられるのじゃないかというような意識の変化が起こりつつあると思うんですよね。今までの世の中はモノや金融など目に見えるものの豊かさを追求する傾向でしたが、そうではなくもっと心豊かに生きるべきだろうと思っています。青臭いかもしれないし、理想ばっかりって言われるかもしれませんが、今こそ理想を掲げて邁進していきたいです。
未来志向というかバックキャスティングで今の課題を解決していくことを非常にやっていきたい。その様に生きていきたいと思います。たった一回しかない人生でどう生きるかということで究極はそこだと思います。自分の中にその幸せ感を持って充実感持って人生を送れるかどうかです。しかもこの会社にいる仲間とか、ご近所さんとか日本とか皆さんが充実感持って最後にこの世を去るときに俺は良い人生だったと、周りの人たちも、あの人がいてよかったなーと思われるように生きることがすごく大事だと思うのです。その時に物の価値は重要ではなくて、生きがいや、やりがいなど、そういうものを感じられる、しかもそういう選択肢が誰しも選べる、そういう世の中にしていくということが大事だと考えています。そういうことをつくっていく世の中において、我々は強みを持ってどれだけ社会的インパクトを大きくできるかということを考えて経営をしていきたいと思っています。だから2030年40年50年のころは地球上の人類の心がもっと豊かで、お互い愛が溢れているといいなと思って一生懸命やっております。

塩浦
うちには今子どもが二人いて、どこにでもいる普通の子どもたちですけれども、やはり子どもたちが将来こうなりたいとか、こういうことしたい、こういうところに行きたい、とか普通の夢を描くことができて、かつしっかり努力すればそれが実現できて大人になる。そういった命のリレーがつながるような社会を一大人として、一職業人として応援できるような営みがつづけば良いと考えております。私はデザイン経営・デザイン思考でお話させていただいていることや、デザインでパッとひらめく、田瀬さんが言われていたそもそも電球いらないの発想が生まれたときが生きていて一番楽しいんですね。昨日までの自分が古く感じてしまう。デザインをしていると脱皮ができる楽しさを感じることができます。それをあと何百回なのか、何千回なのか続けることによって、そういった仲間とリンクをすることによって、面白い社会につながっていければなと思っています。

最近、脳科学の論文で発表されたらしいのですけど人間の脳ってオープンネットワークらしいですね。一人で考えることよりも大人数で考えた方が集団としての知は上がるらしいのです。タイバーシティってそういうことだと思いますが、毎日「そうかこの手があったか」とか「そもそもこれっていらないじゃん」「昨日までの俺なんだったんだろう」ってことを考えて、それが子どもたちに伝播するようなワクワクする社会の一員に参加したいと思っています。

田瀬
先ほどの質問からもちょっとつなげたいのですが、特にパーティション製造業に関連させて是非、皆さんに読んでいただきたいのはコマニーさんの今年の統合報告書です。あの中に何を目指すのかがあり、パーティションの売上じゃなくて、どういう世界を目指したいのかっていうことが書いてあるんです。その中で特に重要だと思っているは、自立分散型ということですね。

私は福岡出身で福岡にも活動拠点があるのですが、福岡に帰るとより楽しいです。自然が東京より多いし、親戚が近くにいるし、東京と比べてアウトプットは今やほぼ同等、場合によってはそれ以上の仕事ができるようになっています。そういう意味でどこに行っても自分の好きな仕事、自分の好きなことができるようになる社会を明らかに目指しています。特に地方における自律・分散・循環です。人間が大量に何かを作って大量に運んでそこで縛るところから開放するんじゃないかと思います。

そうした場合に地方で世界レベルの仕事をするためには、どういう空間が必要かというところが出てきますね。家の近くに最高のアウトプットが出せ、自分が集中できて、誰とでもコミュニケーションができるような空間があるとものすごくいいですよね。ない場合と比べて生産性が違ってきます。そうするとパーティションとすぐに直結してくるような気がしてますし、ここは新型コロナウイルスということもたまたまあって、ものすごく大きなマーケットがここに隠れていると思います。SDGsが目指す、全ての人が自分らしくよく生きられる社会ということを考えた場合にも明らかに自律・分散・循環ということがひとつの視野に入ってきます。明らかにリーディングカンパニーになれる素材を持っていて、気づいているわけだから、そこをちゃんと熱い心と冷たい頭じゃないですけどそこに理論的にどうやって開拓していくかが、次のシステム思考の話になってくると思います。

これが目指すべき世界の一つの形ですけど、最終的には塩浦さんや健太さんもおっしゃっていましたけど、「あったかい」「生きていてよかった」「人と人とつながって、人間捨てたもんじゃないよね」と思える社会を次の世代に残すことですね。僕らは前の世代から、たくさん良いことを教えてもらっているので、今頑張れる状態にあります。今僕らが頑張っていかないと次の世代がえらい大損となると思うので、そこちゃんと生きてるうちにやっておくということが我々の責任なんじゃないかなと思います。

ありがとうございます。本日はありがとうございました。
(聞き手:塚本直之)

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